失敗学の手法【3つのステップ】

1.失敗を主観的に認知する

 ステップ1は「失敗を主観的に認知する」ことである。失敗情報の客観的事実ではなく、主観的な事実を明らかにする。一般的な報告書は客観的な事実のみが記載されているが、これでは失敗の背景や脈略が不明である。

 客観的事実で失敗を表現すると「確認不足でミスをした」となっていしまい、「よく確認しましょう」という反省で終わってしまう。しかし、主観的事実で失敗を表現すると「確認をしたつもりだったが、薄暗い場所で似ている物が隣同士に置いてあり、急いでいたため間違えて持ってきた」となり、「照明を明るくしよう」「似ている物は離して置こう」「似ている物同士を手で持った時に識別できるように形を変えよう」等の対策が生まれる。

 ポイントは、繰り返しになるが「主観的事実」を明らかにすることである。「主観的事実」とは、失敗した瞬間の本人目線で失敗を捉えることである。

  失敗者は失敗した瞬間に、「確認ミス」と認知しているわけがない。なぜなら、「確認ミス」をしたとその瞬間に気が付いていたら、その場で修正できるからである。失敗した瞬間、本人は正しい判断をしていると思っている。「なぜそれを正しいと判断したのか」が主観的事実である。

2.主観的事実を一般化して教訓を得る

 ステップ2は「主観的事実を一般化して教訓を得る」である。ステップ1で明らかになった主観的な事実を一般的な上位概念に変換することで、失敗から学ぶ教訓を考察する。

 今回の失敗事例が「倉庫から物を持ってくる際に、薄暗い場所で似ている物が隣同士に置いてあり、急いでいたため間違えて持ってきた」という事実だとする。この場合、同じような倉庫で同じような仕事をしている人は、この事例から学ぶことは簡単である。しかし、事務職の人は、この事実を見たときに「私は関係ない」と思ってしまうことが多数ではないだろうか。

 ステップ2では、他の職種や業種の人もこの失敗事例から学ぶことができるように一般化した教訓を見つけるステップである。

今回の失敗事例を一般化の例として、

「急いで取りに行く可能性がある場所で、似た物を隣り合わせで置いている場所を点検せよ」

となる。

3.教訓を個々に当てはめ、失敗の未然防止を行う

 ステップ3は「教訓を個々に当てはめ、失敗の未然防止を行う」である。一般化した教訓を自分の職場に当てはめ、失敗の目を摘み取り未然防止を図る。

 今回の教訓を「急いで取りに行く可能性がある、似た物を隣り合わせで置いている場所を点検せよ」として、説明を続けます。

 ある事務所の書庫が照明の関係上若干暗かったとする。その中にはキングファイルの書類がずらりと並んでいる。その中には、たくさんのファイルに混じって「作業手順書」のファイルが保管されていた。ある日、先輩から「急いで作業手順書のファイルを現場に持ってきて!」と頼まれた後輩くん。後輩くんは「作業手順書」ファイルを書庫から取り出し、先輩に渡しましたが…「これじゃない!『作業手順書(その2)』のファイルだ!最新の作業手順書が見たかったんだ!」と怒られてしまいました…。

 さて、失敗学を用いた教訓を取り入れた場合どうなるでしょうか。

 「急いで取りに行く可能性がある、似た物を隣り合わせで置いている場所を点検せよ」という教訓をこの事務所に当てはめた場合…あの書庫がキングファイルだらけで似た物が多いな。よし、ファイルの仕分けを見直そう。まず、「その2」があるファイルは、無印のファイルのタイトルにも「その1」と記載しよう。そして、「その1」のファイルは別の場所に保管しよう。他にも、ファイルの種類ごとに背表紙の色を変えよう。書庫の中に照明を付けることはできないから、見やすいように明るい色を使おう。…

 このように、教訓を自分の職場に当てはめて、改善を行う。そして、失敗の未然防止を行う。これが失敗学である。

参考文献