○塩化物イオン[Cl⁻]とは
塩化物イオンとは、塩素原子[Cl]が電子1個を得てできる陰イオンである。分かりやすく言うと塩分のことである。
ちなみに、塩化物イオンと塩素イオンは同義である。以前は[Cl⁻]を塩素イオンと呼んでいたが、今は塩化物イオンと呼ぶのが主流である。
○塩害
塩害とは、コンクリート中に存在する塩化物イオンの作用により、鋼材が腐食しコンクリート構造物の性能を低下させる現象である。コンクリート中に塩化物イオンが一定量以上存在すると、鋼材の不動態皮膜が破壊されて腐食が進行する。
○塩化物イオンの進入ルート
塩化物イオンが侵入する原因は、
1.海砂、混和材、セメント、水などに最初から含まれる内存塩化物イオン
2.海水飛沫や凍結防止剤などの外来塩化物イオン
○フレッシュコンクリート中の塩化物イオン量
コンクリート標準示方書では、練り混ぜ時にコンクリート中に含まれる塩化物イオン[Cl⁻]の総量が0.30kg/m³以下であれば、塩化物イオンによって構造物の所要の性能は失われないとしている。コンクリート中の塩化物含有量は、フレッシュコンクリート中の水の塩化物イオン濃度と配合設計に用いた単位水量の積として求める。
塩化物イオン[Cl⁻]の規制量0.30kg/m³を塩化ナトリウム[NaCl]に換算すると、0.50kg/m³となる。
○フレッシュコンクリート中の塩化物イオン量の測定方法
・試験紙法
・イオン電極法
・電極電流測定法
などがある。
○硬化コンクリート中の塩化物イオン量の測定方法
・重量法
・容積法
・吸光光度法
・イオン成分測定方法
などがある。
○脱塩工法
脱塩工法とは、コンクリート構造物の表面に電解質溶液と陽極材からなる陽極電極を仮設し、コンクリート中の鋼材との間に直流電流を一定期間流し、電気泳動によってコンクリート中の塩化物イオンをコンクリート外に抽出する方法である。
○電流によるコンクリートの劣化(電食)
鉄筋コンクリートでは、電流が鉄筋からコンクリートに向かって(鉄筋が陽極となる)流れると鉄筋が酸化して腐食する。これを電食という。コンクリートが塩化カルシウムなどの塩化物を含む時はその害が激しい。
○練り混ぜ水の品質
上水道水以外の水の塩化物イオン量は 200mg/L以下 と規定されている。
○エコセメント
都市ゴミ焼却灰を主として必要に応じて下水汚泥などの廃棄物を従としてクリンカーの主原料として、製品1tについてこれらの廃棄物を乾燥ベースで500kg以上使用してつくられるセメントをエコセメントとしてい定義されている。
エコセメントは「普通エコセメント」と「速硬エコセメント」がある。普通エコセメントはセメント中の塩化物イオン量が0.1%以下と規定されいる。速硬エコセメントはセメント中の塩化物イオン量が0.5%以上1.5%以下のものである。
○混和剤の塩化物イオン量
混和剤の塩化物イオン量はⅠ種〜Ⅲ種まで規定があるが、現在使用されている混和剤はほとんどがⅠ種である。Ⅰ種の混和剤の塩化物イオン量は 0.02kg/m³ 以下である。
○PCコンクリートポストテンション方式のグラウト中の塩化物イオン量
グラウト中に含まれる塩化物イオン量は、セメント質量の0.08%以下と規定されている。
○ポルトランドセメントの規格
2003年11月にポルトランドセメントのJIS改正により、普通ポルトランドセメントの塩化物イオンの許容値が従来の0.02%から0.035%に引き上げられた。これは、セメントの原料・燃料の一部に使用されている廃棄物の使用可能量増加に対応するものである。
○塩化物イオン量の規定の歴史
1986年:生コン塩化物総量規制
1987年:コンクリート用化学混和剤JISに塩化物イオン量の規定が追加
○中性化による塩化物イオンの濃縮
中性化の進行によりコンクリート中の固定された塩化物イオン(フリーデル氏塩)が遊離し、コンクリート内部へ移動して濃縮される。
○腐食発生限界塩化物イオン濃度
多くの実験や構造物調査の結果より、1.2kg〜2.5kg/m³程度とされている。
○鉄筋の腐食と中性化の関係
腐食の開始は中性化残り(鋼材のかぶり厚さと中性化深さの差)によって整理されている。塩化物を含まないコンクリートでは中性化残りが8mmを下回ると鉄筋の腐食が開始する。塩化物を含むコンクリートでは中性化残りが20mmを下回ると鉄筋の腐食が開始する。
○含浸材塗布工法
シラン系の含浸材は水分と塩化物イオンの侵入を抑制する。透気性は有するため、炭酸ガスの侵入は抑制できない。
○コールドジョイント
コールドジョイントが存在した場合、コンクリート中への塩化物イオンの浸透が容易になる。
○砂すじ
砂すじはセメントペースト分が流出するため、塩化物イオンが侵入しやすい。
○塩化物イオンの拡散係数
・普通ポルトランドセメントより高炉セメントのほうが拡散係数は小さい
・水セメント比が小さいほど拡散係数は小さい
・時間tとかぶりcの関係は c√t であり、比例関係である。